
「壁も床も全部撤去するスケルトンリノベーションにすれば、間取りは思い通りに作れるはず」
そう思って中古マンション探しを始めた部員さんは多いはず。でもこれ、半分正解で、半分は誤解なんだ。
今日はリノベ部の"見えない場所"担当・モグ太が、中古マンション探し中のアヤさん一家からの相談に答えながら、リノベーション最大の壁「PS(パイプスペース)」をわかりやすく解説していくぞ。
Contents
登場する部員さん
- アヤさん:30代。小学生の姉と年少の弟を育てる、リノベ部きっての質問魔
- 夫さん:40代。週末は物件情報とにらめっこ中
- 姉・弟:内見のたびに「ここ、わたしの部屋にする!」と騒ぐ2人
「対面キッチンにしたいのに、なんでダメなんですか?」

モグ太くん、聞いてください。
先週内見に行った中古マンション、すごく気に入ったんです。でも不動産屋さんに『対面キッチンに変えるのは難しいかも』って言われて…。スケルトンにすればどうにでもなるんじゃないんですか?」
「ここ、勘違いしている人、実は多いんだ…。
スケルトンにするのは、内装材や間仕切り壁を全部取っ払うということ。マンションの構造そのものが自由になるわけじゃないんだよ」

対面キッチンやアイランドキッチンは、料理をしながらリビングの子どもを見守れることから、子育て世帯に人気のスタイル。
ただし壁付けキッチンから対面式に変える場合、シンクの排水位置も一緒に動かす必要があり、これが今日のテーマ「PS」と深く関わってくる。

PS(パイプスペース)って、そもそも何?
「PSっていうのは、キッチンやお風呂、洗面台、トイレから出る排水を、上の階から1階まで流すための縦の配管が通っているスペースのこと。
間取り図に『PS』と書かれている、あの小さな四角がそれだよ」

このPSを通る縦管は、上下階でつながっているマンションの共用部分にあたる。
そのため専有部分のリフォームでも、住む人の判断だけで位置を動かすことは基本的にできない。

「共用部分だから、うちだけの都合じゃ動かせないんですね…」
「そういうこと。しかもキッチン・お風呂・洗面台からの『雑排水』と、トイレからの『汚水』は別系統になっていることがほとんどだから、多くの場合PSは2箇所以上あるんだ」


なぜ「距離」で間取りの自由度が決まるのか
ここが今日いちばん伝えたいポイント。
排水は重力で流れる仕組みのため、配管には一定の勾配(傾斜)が必要になる。
目安は横引き管1mにつき1cm以上。
この勾配が確保できないと、逆勾配になって水が流れず、水漏れや逆流の原因になる。
「つまり、動かせないPSを起点にして『どこまで排水管を延ばせば勾配が確保できるか』が、キッチンやお風呂を移動できる距離の限界になるんだ」


「じゃあ、リビング側に思いきってお風呂を持ってきて、庭を眺めながら…みたいなのは?」
「理論上はゼロじゃないけど、天井高に制限があるマンションだと現実的じゃないことが多いね。無理に床を上げて配管を隠すと、その分天井が低くなって圧迫感のある空間になってしまう。
ここ、見落としがちだから気をつけて」

特にトイレの汚水管は、紙類を一緒に流す関係で詰まりのリスクが高く、位置を動かさない前提で設計されることが多い。
モグ太の豆知識
キッチンを対面式に変える場合、排水だけでなく換気扇の排気ダクトの取り回しも要チェック。ダクトをあえて見せるデザインにする方法もあれば、天井を一部ふかして隠す方法もある。
「直床」と「二重床」、どちらが動かしやすい?
床の構造も、移設のしやすさを左右する重要ポイント。
- 直床:コンクリートに直接フローリングなどを施工する工法。配管を通す隙間がなく、水回りの移設には不向き
- 二重床:床下に空間を確保し、その中に配管を通す工法。直床より移設の自由度が高い傾向
ただし二重床でも、PSとの距離や勾配の制約から逃れられるわけではない。「二重床だから何でも自由」ではない点は変わらない。
近年は、構造躯体(スケルトン)と内装・設備(インフィル)を設計段階から分離し、配管や配線をあえて住戸の外に通しておく「スケルトン・インフィル(SI)」という設計を採用するマンションも見られるようになってきた。この方式なら躯体に制約されずに間取りや設備を変更しやすく、子どもの成長にあわせて住まいを育てていける。

「これから中古マンションを探すなら、内見のときに『配管がどう通っているか』を聞いてみるといいよ。
姉ちゃんと弟くんが大きくなったときの間取り変更のしやすさにも関わってくるからね」

柱・梁の構造もチェックしておきたい
マンションの構造は、大きく2タイプに分かれる。
| 構造タイプ | 特徴 | リノベのしやすさ |
|---|---|---|
| ラーメン構造 | 柱と梁で建物を支える | 間仕切り壁はほぼ撤去可能。自由度が高い |
| 壁式構造 | 厚み約20cmの壁で床・天井を支える | 撤去できない壁が多く、制約が大きい |
どちらの構造でも、柱・梁・耐力壁には一切手を加えられないのは共通ルール。
築年数が古いほど室内に大きく張り出した梁があることも多いので、子ども部屋の天井まわりも内見時にあわせて見ておきたい。
内見の前に確認できる、4つのチェックポイント
内見の段階では配管まで見せてもらえないケースがほとんど。それでも次を押さえておけば、契約後の「こんなはずじゃなかった」をかなり減らせる。
- 間取り図に記載されたPSの位置を確認する
- 直床か二重床かを不動産会社・管理会社に確認する
- ラーメン構造か壁式構造かを確認する
- 契約前にリノベーション会社に同席してもらい、現地調査を依頼する

「わたしたち夫婦だけだと、図面を見てもチンプンカンプンで…。プロの目で一緒に見てもらうのが一番安心そうですね」
「そのとおり。壁の中や床下は、実際に解体してみないと100%わからない部分もあるんだ。それでも事前にここまで押さえておけば、理想の間取りができそうかの見通しはかなり立てられるよ」

気になる費用感の目安
内容や地域で差はあるが、マンションのフルリノベーションはおおむね1㎡あたり15万〜20万円が目安とされることが多い。
70㎡なら総額1,050万〜1,400万円程度が一つの基準になる。
設備メーカーの価格や資材費は時期によって変動するため、見積もりは早めに取っておくと安心。
補助制度が使える場合もあるので、着工前に最新情報を確認しておこう。

まとめ:「動かせないもの」を知ることが、理想の間取りへの近道
「アヤさん、夫さん、大事なことをもう一度おさらいしておくね」

- PSは共用部分のため、原則として位置を動かせない
- 水回りの移設可能距離はPSからの排水勾配で決まる
- 直床より二重床、さらにSI仕様の方がリノベの自由度は高い傾向
- 柱・梁などの構造躯体には一切手を加えられない
- 内見で確認しきれない部分こそ、事前のプロへの相談が効く

「対面キッチン、諦めなくてよさそうです。PSの位置を確認してから、リノベーション会社さんに相談してみます!」
「『スケルトンにすれば何でも自由』じゃなくて、『動かせないものを起点に、理想の暮らしをどう組み立てるか』が、マンションリノベーションの本当の面白さなんだ。
姉ちゃんも弟くんも、ずっと気に入ってくれる住まいになるといいね」
